次回研究会のお知らせ

◆日時 7月13日(土)

◆会場 首都大学東京 秋葉原サテライトキャンパス

    千代田区外神田1-18-13  秋葉原ダイビル12階

   (末尾の交通アクセスをご参照ください。)

◆主催:イメージ&ジェンダー研究会

◆スケジュール

全体会議 12:00~12:45

※今回は新メーリングリスト、新ホームページ、新たな役割分担などに関する話し合いをしたいと思います。また発表者も引き続き募集します。どうぞ全体会議への参加をお願い申し上げます。

研究発表、活動報告 13:00~17:30

※お二人のご報告は1時間程度、コメントと質疑応答を含め、それぞれ2時間を予定しております。

 武内氏のご報告は、15:15頃からといたします。

発表者① 山田萌果(北海学園大学大学院文学研究科博士課程)

     コメンテーター:中嶋泉(首都大学東京)

「日本現代芸術における「少女」のアブジェクト――フェミニズムアートとしての可能性とその越境――」

発表者② 武内治子(公益財団法人酒田市美術館)

     コメンテーター:嵯峨景子(明治学院大学)

「第二次世界大戦期における『主婦之友』と『少女倶楽部』の女性像」

《発表要旨》

日本現代芸術における「少女」のアブジェクト――フェミニズムアートとしての可能性とその越境――

北海学園大学大学院文学研究科博士課程

山田萌果

 少女は小説、漫画やアニメなど様々なメディアで表象され注目されている。近年、少女表象に対する美術史的関心が高まっており、2014年には『美少女の美術史』展が全国三ヵ所を巡回し開催された。日本美術史における少女表象の研究成果として、『美少女の美術史』展は、画期的かつ有意義なものであった。この展覧会では、少女が明治以降盛んに描かれ、さらに現代芸術の領域では、少女を描く芸術家が多く存在するということが明らかとなった。また、展覧会で見て取れたのは、少女表象の変化である。これまで少女は、可憐で純粋無垢な存在として描かれてきた。しかし、現代の少女表象は、これまで描かれてきた少女の姿に留まらず、傷つき血を流し、微笑むことのない様子が描かれている。新しい少女表象は、「純粋無垢」というような少女のステレオタイプ的イメージに縛られてはいない。

 なぜ、これまでとは全く異なった姿で少女が描かれるのであろうか。『美少女の美術史』展では深く言及されていなかったが、明治から昭和にかけては、女性が芸術家として活動することは難しく、少女表象もそのほとんどが男性によって描かれていた。澁澤龍彦は、少女を「純粋客体」と評価した(『少女コレクション序説』中公文庫、1985年)が、少女はこれまで成人男性の視点から欲望の対象として表象されてきたのである。しかし、近年の少女表象は主に女性によって描かれている。本研究では、まず、その点に注目し、フェミニズムアートとの関連性を検討する。芸術における男性中心主義に異議申し立てを行う芸術作品群であるフェミニズムアートに関する美学的研究成果として挙げられるのは、キャロリン・コースマイヤーによる『美学―ジェンダーの視点から』(Carolyn Korsmeyer, Gender and Aesthetics: An Introduction, 2004.)である。

 コースマイヤーは、身体を活用した内臓的な表現を行うフェミニズムアートの分析に、フランスの思想家ジュリア・クリステヴァのアブジェクト理論を援用した。アブジェクトとは、クリステヴァが『恐怖の権力―〈アブジェクシオン〉試論』(Julia Kristeva, Pouvoirs de l’horreur, Essai sur l’abjection, 1980.)にて提唱した境界や場所や規則を無視する中間的存在のことである。クリステヴァによれば、象徴秩序に介入する以前の子どもの根源的な場所は母親の胎内であり、子どもにとって母は自己のアイデンティティを喪失させる恐怖と、そのまま母に同一化したいという魅惑を持つ存在であるという。コースマイヤーは、フェミニズムアートの多くは、芸術でモチーフとされてきた、男性が理想とする美しい女性像を否定し、根源的なアブジェクトを表現しているのだと述べている。新しい少女表象には、クリステヴァがアブジェクトの例として挙げている血や嘔吐、身体の欠損が描かれている。フェミニズムアートは、母の身体という点をアブジェクトとして表現しているが、新しい少女表象はフェミニズムアートが強く表現する女性性のアブジェクトを有しながらも、より特殊な「中間性」というアブジェクトをも映し出す。中間的存在は、クリステヴァによれば、規定や規則を掻き乱し、混乱させる作用があるという。少女表象は、フェミニズムアートと同様に女性の主体性を訴えかける作用を持つが、それに加え、あらゆる規定に疑問符を提示し、日常生活において、ないものとされている我々の息苦しさや不安感を再認識する作用があるのではなかろうか。

「第二次世界大戦期における『主婦之友』と『少女倶楽部』の女性像」

武内 治子(公益財団法人酒田市美術館)

 本発表では、第二次世界大戦期の日本において女性がどのように表象されていたのか、女性雑誌『主婦之友』と少女雑誌『少女倶楽部』の表紙を取り上げ、プロパガンダとしての女性表象の役割を検証していく。

 女性雑誌『主婦之友』は、1917年の創刊から2008年休刊に至るまで、長年女性雑誌を牽引してきたメディアである。『主婦之友』は、都市に住む核家族という新しい家族の形態に属する新妻、若しくは花嫁修業中の女性に読者を限定し、女性が結婚した後の家事や育児、料理についての教本となることを目指して作られた。それに対して『少女倶楽部』は、核家族から生まれた少女を読者層としており、道徳的な教えを説き、将来良妻賢母となる性質を育むことを目指した雑誌である。

 先行研究での『主婦之友』における表象分析では、母子像、看護婦像、銃後の女性像の3つのパターンに区分されている。しかし、この区分に当てはまらない女性像が登場し、消えていったことはこれまで指摘されてこなかった。本発表では、消えていった女性像の一つである「女性栄養士」に注目することで、戦時下の日本における女性雑誌の複雑なプロパガンダ的機能を考察することを目的とする。

 1942年3月号に「女性栄養士」が表紙に登場した背景には、科学技術者の需要急増と、男性研究者の不足を補うために、文部省が女性の理科系専門学校の設置を要請したことが要因として挙げられる。また、この号の特集記事では、母親にも育児に関して科学的な知識を与える重要性が訴えられている。女性研究者の表象は、一見すると女性の社会進出を反映した新たな女性像と捉えられるが、科学的知識を育児に取り入れた新たな母親像という二重のイメージを孕んでいる。さらに、同年4月号『少女倶楽部』においても、理科室で実験に取り組む少女像が表紙を飾り、少女期にも科学の推奨が行われていたことが指摘できる。そして、少女と科学を強く結びつける象徴として、飛行機の関係性も明らかにしていく。

 『少女倶楽部』では、「アイドル的な要素を持つ少女像」を取り上げる。読者を少女と限定していた少女雑誌において、初めて兵士を読者として想定して描かれた稀有な一例である。

 本発表では、従来の女性表象のカテゴリーには当てはまらない特殊な表象に焦点を当てることで、政局が女性表象の変化にどのような影響を与えていたかを浮き彫りにする。それにより、大衆向けの女性雑誌の女性表象には複雑なイメージが組み込まれ、プロパガンダとして機能していたことが明らかになるだろう。また、従来の表象区分と本発表で新たに浮き上がった表象が、女性雑誌、少女雑誌共に、最終的には銃後の女性像として統一され、女性の役割が女性の生産性に留まったことを問題提起としたい。

■会場までの交通アクセスhttp://www.comp.tmu.ac.jp/manycore/images/TMU_AKIBA.pdf

首都大学東京 秋葉原サテライトキャンパス
住所:千代田区外神田 1-18-13 秋葉原ダイビル 12 階(1202)
アクセス:JR「秋葉原駅」(山手線、京浜東北線、総武中央線) 徒歩約 1 分
つくばエクスプレス「秋葉原駅」 徒歩約 2 分
東京メトロ日比谷線「秋葉原駅」 徒歩約 5 分
東京メトロ銀座線 「末広町駅」 徒歩約 5 分
秋葉原駅での出口は「電気街口」です.お間違えのないように願います.
事務局電話番号 03-5294-0250

■お問い合わせ:imagegender@yahoo.co.jp

企画担当:吉良智子・中嶋泉